身許―――。帰る、場所。
「ジュリエット・ベルティエ…と、
申します。」
「ベルティエ伯爵家のご令嬢か。
確か…いまのご当主は
先代殿の妹君だったか…」
沸々と、怒りと悲しみが込み上げてくる。
いったい、どうして私がこんな目に。
うつむきながら、唇の端を噛む。
――帰る場所なんて、ない。
戻れる場所なんて、ジルにはない。
「――レディ?」
その様子を不審に思ったのか、
ハインツは人払いを命じた。
促されて船から降り、地面に足をつけると
ほっとして涙腺が更に脆くなる。
「アディル!
私は先にこのレディと王宮へ戻り
陛下に詳らかに申し上げる。
片付いたら、それぞれ戻ってくるように。」
「はっ。」
最敬礼をしたアディルという騎士は
すぐに踵を翻して船へ戻ってゆく。
それを見届けるとジルはハインツとともに
馬車へ乗り込んだ。
王太子と相席なぞ、
不敬も甚だしいところだがハインツは
なにも言わず近従に飲み物の用意を命じた。
用意された飲み物を口に含ませると
体が内側から暖まっていくようだった。
「―――さて、レディ。
良かったら、話を聞かせてくれないか?
きっと、ご家族も心配しているだろう。」
