「おい、動くんじゃねえぞ!
動いたらこの女がどうなるかくらい、
てめえらお偉い騎士サマなら分かるだろう!」

ジルの首に左手をまわし、
右手で小型銃をとりだしたラーズは
苦しみに眉を寄せるジルの頭に
銃口を突きつけた。

(く、るし…!)

涙で滲む視界と、
酸素不足でぼんやりする頭を必死に
フル回転させて
きゅっと踵の高い靴に力を入れた。
もう、イチかバチかしかない。

これ以上、自分のせいで手を出せずにいる
騎士団の足手まといにはなりたくない。

「さァ、どうする……っうぁ!」

ラーズの視線が逸れた一瞬で
足を振り上げ、高い踵を利用して
思いきり脛を蹴る。
銃口が離れた瞬間に両手でラーズを
突き飛ばし、その反動で欄干に手を伸ばした。

「なっ…」

「捕縛せよ!」

合図とともに騎士達が船員の攻撃を交わし
次々と縄をかけてゆく。
ラーズは何人かに取り押さえられ、
抵抗していたがあの様子では
最早逃げられないだろう。
一瞬にして戦場となった甲板は
怒号や罵声が満ち、市場がたつ港からは
野次馬が集まってきている。

けほっと咳き込むジルは
ずるずると座り込んで、海面を見下ろした。

「指輪が…」