「やめてーっ!」
陽光に反射しながら海へと投げられた
アメジストの指輪を追って
欄干に駆け寄ったジルに近づくラーズは
肩を揺らしながら笑っている。
「はは!手がすべっちまった―――」
「船長!」
バタバタと甲板に集まってきた男達が
慌てた声をあげる。
「なんだぁ?ルイス。
いったい―――」
「下に居た奴ら、やられちまった!
騎士団が―――乗り込んできやがる!」
「――もう遅い。」
カチリ、と銃を構える音にラーズは
焦りをみせて振り返った。
「な…いつの間に入ってきやがった!」
イェルディの国旗と同じく
白と緋、金を基調とした制服を纏った
数十人もの騎士達がラーズに銃を向けた。
「お前たちが話している間に
お邪魔させて貰ったよ。
おっと、海に身を投げても無駄だ。
まわりにも仲間は見張ってるからな。」
胸にいくつもの勲章をつけた男が
ラーズを睨んだ。
何人かの男達が戦いて身を寄せあっている。
「東方大陸貿易船船長ゲルアン=ラーズ。
貴様を不正貿易法の罪及び
我がイェルディでは禁止されている
人身売買の罪において捕縛する。
私が合図すれば、すぐに撃てる状態だ。
無駄な抵抗はよせ。」
ラーズは「ちっ」と舌打ちし、
視線を巡らせた。
甲板に集まっていた船員達をちら、と確認し
最後に欄干に寄って座り込むジルを見た。
(や…やだ…逃げなきゃ…)
だが、先程床に叩きつけられた衝撃で
腰を打った痛みと、どうなるかわからない恐怖でなかなか、立ち上がることが出来ない。
先に動いたのはラーズだった。
ラーズはジルの髪を掴み、
無理矢理立たせると声をあげて笑った。
