「レティに余計なことを
吹き込んではいまいわね?」
来た、とジルは顔をあげた。
そこにあったのは自分を見下ろす
灰色の二対の瞳。
その吹雪のような眼差しに見つめられても
ジルは怯まなかった。
「もちろんですわ。
侯爵家との縁組など、またとない
良縁ですもの。」
貴族にとって、血筋というのは
大事な財産である。
ネゼン侯爵が何故格下の伯爵家の姫君を
妻にと望んだのかは疑問だが、
別段気にかかることではない。
世の中、お金より愛が大切な人も
いるということだ。
(あ…今日の夕飯はどうしようかな……。
そういえば昨日ジャンヌさんから
黒豆貰ったんだっけ――。)
叔母の小言を聞き流しながら、
ジルは頭の中で夕飯の献立を考えていた。
黒豆を煮出したスープに、
庭で獲れた葡萄を干して生地に包み焼きした
ホットパイ、
スフェリー産の鮭をきのこと一緒に蒸して…。
「…ル。ジル!聞いているの?!」
「あ、はい。聞いていますもちろん」
まったく聞いてなかったとは言えず
ジルは慌てて笑顔を作る。
胡散臭そうな視線を投げてくるリーシェは
「まぁ良いわ」と溜め息をついた。
