バン!と勢いよく扉を開け
室内に入ってきた若々しい金髪の美女―――
叔母リーシェは
レティの姿を認めるなり、眦をさげた。
「あぁ、レティ。ここにいたの。
今日はこれからドレスの採寸があるのに
どこへ行ってしまったのかしら、と
心配したわ。」
「ごめんなさい、母様。
ジル姉さんと話をしていたのよ。
伯母様がお好きだった薔薇園のことで。」
「あぁ、薔薇園ね。
そんなこと、レティが
罪悪感を感じる必要はないのよ?
ジルだって言っていたのでしょう?
レティの幸せの為なら、って。
…ねぇ、ジル。」
針をぷすりと刺し、ジルは
顔の筋肉を総動員させて笑ってみせた。
「えぇ。叔母様の仰る通り。
レティ、貴女が気にすることはないわ。」
冷ややかな叔母の視線から逃れるように
再び素早く針を動かしはじめたジルは
内心ちっと舌打ちした。
(もとはと言えば、叔母様のせいでしょーが!)
あの薔薇園に、
ジルは一番力を入れていた。
薔薇は素晴らしい。
花びらを粉末にし砂糖と生姜を茶葉と煮れば
暖まる薔薇茶ができるし、
薔薇の蜜漬けや、整髪剤なんかも作れる。
貴重な収入源だったのに。
(まぁ、確かに憎たらしいところもあるけど
可愛い従妹の結婚なんだもの。
…仕方ないわよね。
あの薔薇園が一番高価だし…)
「さ、レティ。
そろそろ衣装部屋へ移りなさいな。
仕立師が来てしまうわ。」
リーシェはレティを促し、
衣装部屋へ移動させるべく
部屋から追い出した。
レティの前では母親然として
貴婦人らしく微笑むリーシェも、
ジルの前ではがらりと雰囲気を変える。
