「俺よぉ、今日りさと同じ車両にのったんだよ」



遥斗は、楽しそうに俺の話を聞きながら、大きく頷く。



「それがさ満員電車でよ、りさは俺の斜め前くれぇにいたっけな。

名前は知ってたけどよ、別に興味なんてさらさらなかったんだ」



「うんうんうん!それでそれで!?」




…こいつは、人の恋の話を聞くのが、そんなに楽しいのか。



だんだんめんどくさくなってくるけど、アドレスのため、話を続ける。




「俺は、ずっと携帯いじって時間潰しててたんだよ。

そしたらよ、りさのやつ痴漢野郎に、尻触られててよ」



「ちょっと!元樹!見て見ぬふりしたとか言うなよ!?」




なぜか落ち着かない遥斗は、身を乗り出して叫ぶ。




「いや、助けなくてもよかったっつーか…。

りさのやつ、痴漢野郎に、おっさん尻触んなって、自分で言い出してよ」




あの電車での光景を思い出す。




「おっさん相手に、文句ボロクソ言ったんだよ。

まじで、あんときは笑い堪えんのに大変だったっつーの」




今、思い出しても、笑いが込み上げてくる。おっさんとか低脳とか、言いたい放題言いやがって。




「あんなおもしれぇ女、初めてだったんだよ。

うさぎみてぇな顔してんのに、狼みてぇな性格でよ」



「…そこに惹かれた、と?」



「おうよ。

俺がさっき言い寄っても、断ると決めたら断じて揺るがねぇ。

言い寄っただけで、すぐにおちっちまうような、そこらの女とはちげぇんだ」




ちらっと、遥斗のほうを見ると、遥斗は俯いていて、表情が伺えない。