―残酷な過去―
その日、あたし達4人は帰りにゲームセンターに寄った。そして4人でプリクラを
撮ったり、お互いのカップルでプリクラを撮ったりしていた。こんなことしたの初めて。
2人きりのプリクラのブース。あたしは緊張してなんにも固まっていた。…だって4人の
時は優奈もいたんだもん。すると幸輔はクスクスと笑ってシャッター音と一緒に
あたしの頬に優しくキスをした。あたしの顔は自分でもわかるくらいに赤くなる。
「可愛い」
幸輔はそういうとあたしのことをギュッと抱きしめた。…なんか幸輔のペースなんです
けど…。そして落書き。固まってるあたしより幸輔にキスされてるあたしのが表情が
いい。ナルシストとかじゃなくて、顔がゆるんでいいってことね(笑)
…大好き。そしてあたしたち4人がゲームセンターを出ると何人かの男女がこっちに
気が付いて近づいてきた。あたしと優奈と雄一は知らない。きっと幸輔の知り合い。
「うぃーす!幸輔~久しぶりじゃーん♪」
「…おう、久しぶり~」
「って、お前彼女できたの?」
そう幸輔に不思議そうに聞く男子生徒。中学の頃の知り合いらしい。すると、何人かの
男女の生徒が哀れな目で幸輔の事を見てることに気が付いた。幸輔もきっと気が付いて
いるだろう。…意味が分からない。幸輔に彼女ができることが珍しいことなの?
こんなにモテたりするのに…。すると、そこにいた女子生徒があたしの腕を引っ張り
人気のない場所に連れて行かれた。…なに?なに?
「あなた、知らないの?幸輔の過去」
「…幸輔の過去?家族のことなら知ってますけど…」
「それだけじゃないよ」
「…え?」
「やっぱり、幸輔は話してないんだ。あんなこと簡単に話せるわけないしね」
するとその女子生徒はその場所から立ち去ろうとした。…幸輔の過去って何?
幸輔はなんにも話してくれなかった、家族のことしか。何があったの?…幸輔に
一体何があったの…?本当は幸輔の口からききたい。でも、きっと話してくれない。
さっき女子生徒が言ったように簡単ではないと思うから。だからあたしは女子生徒に
聞く。それなら幸輔に聞くより聞きやすいと思うから。
「ねぇ、ちょっと待って」
「ん?どうかした?きっとみんな待ってるよ?」
「…してください」
「え?なに?」
「幸輔の過去話してください」
「あなたがいいなら…」
あたしは静かにコクンと頷いた。
「簡単に言うとね。幸輔は中学の頃彼女を事故で失ったの」
「…え…?」
「幸輔、結構学校来なかったんだけどね一番に幸輔のことを理解してた人だった。
だからその人と一緒にいるときの幸輔は本当に幸せそうでね。だけど、ある日。
その子は飲酒運転の車に突っ込まれた。出血がひどくてもう即死だった。それから
幸輔は誰とも口をきかなくなった。当たり前だよね。彼女失ったら。だからさっき
彼女がいるって聞いてみんなびっくりしたの。だってそのことがあるのに彼女なんて
作ろうだなんて誰も思わないでしょ?だから…いきなりごめんね?でも、幸輔の
あの笑顔久しぶりに見たの。だからあなたのこと本当に好きなんだと思う。だから
幸輔のこと大切にしてやってね」
もう涙が止まらなかったんだ。悔しかった。幸輔がそんなことあったのにあたしに
話してくれてなかったってことはあたしのこと信じてないってことでしょ?悔しかった。
辛かった。どうして?その言葉しか出てこなかった。幸輔のその時の気持ち、わかるよ。
でも、幸輔はあたしのこと好きなんだよね?好きでいてくれてるんだよね?なのに
どうして…?幸輔、どうして?あたしはその日、優奈たちのところへは戻らなかった。
だって戻ったら幸輔もいるから。逢いたくない嫌いになったわけじゃない。好き。
好きだからこそ、本当に悔しかった。話してくれなかったことが。信頼されてない
ってことが。だからあたしは1人で家に帰った。誰にも知らせずに。家に帰っても
あたしの苦しみは消えなかった。涙も止まることがなかった。…凄い自分惨めだ。
携帯が何回も鳴る。優奈、雄一、幸輔から。幸輔からは何回も電話が来た。でも
出なかった。話したくない、逢いたくない。幸輔はきっとあたしがあのことを聞いた
ってことに気が付いたんだろう。だから余計に心配してくれてるんだろう。でも今は
そんなこともウザく感じた。ピーンポーン。あたし1人の部屋に響く音。…誰?
あたしはドアにある除き穴を見た。そこにいたのは幸輔だった。だからあたしは
ドア越しに強くて厳しい口調で言った。
「帰って」
「…なぁ、どうしたんだよ」
「アンタに関係ない」
「じゃあ、お前の気持ちが落ち着くまで、俺お前の家のドアの前にいるから」
あたしは答えなかった。そんなの嘘ってずっと思っていたから。それから何時間
たったのかな。あたしは幸輔なんて気にしないで本を読んだりお風呂入ったりしてた。
…いるわけない。だけど、幸輔ならいる気がした。ドアを開けると肌寒くて…。
幸輔はその傍で寝ていた。あたしはため息をついて幸輔をつついた。すると、幸輔は
バタンと倒れた。凄い熱。寒いのに薄着で待ってるから…。あたしは幸輔を急いで
部屋に運んだ。そして温かい服を集めてあたしのベッドに寝かせた。幸輔はもう
気を失っていて目を開けない。ただ、苦しそうにうなっているだけ。…ごめんね幸輔。
ただ、あたしは幸輔の口から過去を話してほしかっただけ。過去のその女の人に
嫉妬とかじゃない、ただ話してくれなかったことが辛かったんだ。だから避けた。
なのに幸輔は真っ直ぐぶつかってくれた。ごめんね、本当にありがとう。
