―優しい腕―
『辛かったな』そう言ってあたしのことを優しく包み込んでくれた
遠藤幸輔の腕。温かくて、生きてる感じがした。その優しい腕に
あたしはいつの間にか心許して沢山泣いて、いつの間にか眠って
しまってたようだった。その時に見た夢はあたしがみんなで笑ってる
夢だった…。いつものような怖い夢なんかじゃなかった。初めてこんな
楽しい夢を見た。そしてあたしは魔法が解けたみたいにゆっくり目を
開けた。すると、あたしは遠藤幸輔の腕の中でそのまま眠ってしまって
いたようで…あたしが起きたことに遠藤幸輔は気が付いたようで
「やーっと起きた♪お前寝過ぎ(笑)」
「え?どのくらい寝てた?」
「んーと、9時半くらいから今12時半」
「えぇっ?!」
「まぁ、それだけ安心したってことだな♪よかった!」
「あ、うん…ありがとうね、遠藤幸輔」
「おいおい、フルネームとかやめてよ~♪幸輔でいいよ」
「遠藤…あ、幸輔」
そう呼ぶと、なぜか幸輔は下をうつむいた。…え?呼ばない方がよかった?
そう思いあたしは焦って幸輔の顔を覗き込むように
「…幸輔?…え、あ…ごめん…」
「…///」
「…ごめん」
すると、幸輔はいきなり顔をあげてあたしのほっぺたをムニューとつねり
笑顔でこっちを見てくる。だけど、その時の幸輔の顔は真っ赤だった。
よく鈍感と言われるあたしは何気なく
「…幸輔?顔真っ赤だよ?(笑)」
「うっせーよ、気のせいだから!ばーか」
あたしはそう言われて普通はむかつくはずなのに、なぜか嬉しかった。
幸輔と一緒に居れてること自体にドキドキしていた。その日あたしは
結局授業は全部サボり。もちろん…このまま幸輔も。幸輔とだったら
このまま一緒にいてもいい、そう思っていたから。そうじゃない、幸輔と
一緒にいたいから…。幸輔だったら気遣わなくても全然大丈夫だし、
あたしのことをわかってくれてる。だから一緒にいたいって思っているの
かと思っていた。しばらくすると、屋上のドアが開き入ってきたのは
…田中雄一。幸輔は「へーい!雄一♪」すると、クールな田中雄一は右手を
軽く上げるだけ。…さすがクールボーイ。そして幸輔の隣に座った。
すると、田中雄一が
「俺…邪魔だったか?」
あたしと幸輔は顔を見合わせて
「…全然っ!」
声がハモッタ。あたしの顔はみるみるうちに赤くなるのがわかり、幸輔は
不自然に胸ポケットにしまってある、煙草とライターを取り出し、火をつけた。
「あはははははっ!」
…田中雄一が笑った。初めてみた。今はそんなことじゃなくて!すると、
あたしより先に幸輔が突っ込んだ。
「なんで笑ってんだよ?」
「はは…だってお前ら2人息ピッタリなんだもん!」
「え?どこが!」
その一言も声が合わさっていた。…もう…。だけど、全然嫌な気はしなかった。
むしろ、もっと言ってほしいって感じさえした。…なに?このドキドキ。
…あたし、どうしちゃったの…?それから夕方まであたしたち3人は何気ない
会話で盛り上がった。田中雄一ともいつの間にか打ち解けていてあたしの前でも
"俺"を使っていた。しかも、田中雄一はよく喋る。見た目と同じ。やっぱり
馴れると、こんな風になるんだぁ…。しかも、いつの間にか田中雄一はあたし
のこと"愛香"って呼んでるしー…。まぁそっちの方が絡みやすいけど…。
すると、幸輔はトイレに行くって言って屋上を出ていった。沈黙の2人。
優奈!優奈は田中雄一のことが好きなんだから少しリサーチしとこーと♪
「あのさ、田中雄一君!」
すると、田中雄一はあたしの腕をつかんで睨み付け言った。
「…なんで幸輔には幸輔で、俺はフルネームなんだよ」
そのあまりの怖さにあたしの声は震え、精一杯の声で言った。
「…幸輔って呼んでって…言われたから…です…」
「…じゃあ、俺の事も雄一って呼べよ」
「あ…はい…」
「俺さ…」
そう言うと、雄一の言葉が止まった。気が付くと幸輔が雄一の腕をつかんでいる。
「愛香に何してんだよ」
そういう幸輔の目は雄一よりも怖かった…。
「こういうことしてんの♪」
そいいうと、雄一の顔があたしの顔の目の前に来て、あたしの唇になにか温かい
感触…キス。…え?え?え?…どうしてあたしにするの…?あたしはその瞬間
うつむいた。すると、バチンッ。その音が響いた。その音と共に音の方を見る。
すると、幸輔があの凄い目で雄一の顔面を思い切り殴っていた。
「ふざけんじゃねぇ!」
…どうして?幸輔はあたしの彼氏でもなんでもないんだよ?なのにどうして
幸輔はこんなに怒っているの…?すると、雄一は屋上を出ていった。あたしは
雄一が出ていった瞬間涙が溢れた。…辛くてじゃない。なんではわからないけど
嬉しかった。ふざけんなってあたしにキスしたことに対してだよね?それが
本当に嬉しかったんだ…。すると、泣いているあたしに気が付いた幸輔は振り向き
あたしの元へ来る。幸輔の目はさっきみたいな怖い目じゃなくて優しい目だった。
…あ、優しい目。すると、幸輔は焦りながらあたしを優しく抱きしめた。
「愛香?!俺、なんかしたか?わわっ泣くな!ごめんな?」
…違うよ…違うよ。嬉しくて泣いてるんだよ。
「…っ嬉しくて…ふざけんなって言ってくれたこと…嬉しくて…ありがとう」
「もうわかったから…泣くな」
…やっぱり、幸輔の腕の中…温かい。安心できる。…ありがとう。
そして幸輔は泣いているあたしのことを優しく見つめながら言った。
「俺…愛香のこと好きかもしんねぇ。てか、好きだ。だからさっき雄一のやつが
あんなことしてムカついて…気が付いたら手だしてた…」
「…うん、あたしもね幸輔が好きなの…。だから嬉しかった」
そういうと、幸輔はもっと強く抱きしめた。さっきよりも強く感じる幸輔の鼓動。
幸輔の心臓の音がハッキリわかる。…幸せだよ幸輔。あたしの初恋はドキドキして
ちょっぴりハラハラして…幸せな初恋。その日からあたしと幸輔の1日が始まる。
