えがお。




 ―笑顔の意味―


 ねぇどうして笑っていられるの?
 どうして幸せそうにいられるの?
 どうしてこんなに世界は不平等なの?
 別に悲劇のヒロイン演じてるわけなんかない。
 もしかしたら演じてるのかもしれないけど…。
 だけど、あたしはきっと心がないのかもしれない。
 きっと前まではこんな子じゃなかったと思うよ。
 あたしが変わったのは中2の冬。あたしにはもうとっくの
 前からお父さんお母さんって呼べる人いないんだ。
 あたしが中2の夏に2人は離婚した。それからお母さんは
 毎日男作って家へは帰ってこなかった。もちろん辛かった。
 だけど、泣くのも我慢してあたしは毎日必死に生きた。
 だけど、それが3か月くらい続いた時、お母さんが帰ってきた。
 そして言った。「産まなきゃよかった。邪魔」ってね。
 その時のお母さんの目は冷たかった。そしてあたしは荷物を
 まとめて家を出た。その時ずっと溜めていた涙が溢れだした。
 それからあたしは学校に行かなくなり、バイトを始めた。
 顔だけみたら高校生くらいに見えるくらいあたしの顔は
 大人っぽかった。だから頑張ってバイトしてアパートを借りた。
 朝から夜までずっと働いてた。そしてある日、バイトが終わって
 帰り道いきなり、ガン。と鈍い音と共にあたしは倒れ込んだ。
 気が付くと大きな車に沢山の男の人達。怖い、怖い、怖い。
 …あたしは汚れた。…レイプされたんだ。もうあたしはそこ
 から生きることを諦め始めて、"リストカット"を始めた。
 傷は痛々しいがすごく楽になった。だからやめられないんだ。
 …だからあたしは笑えない。…笑う意味わからない。
 渡辺愛香。高校2年生。あたしの過去は人生はもうボロボロ。
 生きていてもしょうがない人間。友達なんていない。
 作ったってどうせ安い同情されるだけでしょ?そんなの嫌。
 同情されるこっちの身にもなってみてよ…辛いんだよ。
 あたしは自分の席についていつも読んでる携帯小説を開いた。
 今日はクラス替え。クラス発表がされた今。教室では友達と一緒に
 なって喜んでいる人と離れて悲しんでいる人がいる。みんな
 幸せそうに笑ってる…。すると、ガタンッ。横から音がした。
 横を見ると、見たこともない男子生徒が立っていた。明るめの綺麗な
 茶色の髪、3つほど空いてるピアス、制服は着崩していて、顔は
 整っている。あたしはその人と目があった瞬間時間が動いているのを
 忘れてしまうような変な気分になった。すると「遠藤幸輔ー!」と
 先生の声。その声と共にあたしは目をそらした。そして遠藤幸輔は
 深いため息をついてバッグを持って教室を出た。気が付けば教室は
 静まり返っていて、そいつが教室から出た時から女子のヒソヒソ声が
 聞こえた。「遠藤君だ♪」「カッコいい♪」「久々に学校来たね♪」
 やっぱり、モテるんだ。まぁあたしには関係ないけどね。だって
 あたしはああゆうタイプ嫌い。あたしはまた携帯小説を読み始めた。
 すると、また変な視線を感じた。…前から。あたしはチラッと見た。
 すると、可愛らしい女の子があたしのことを見てニコニコしている。
 「愛香ちゃん♪うち、高橋優奈」
 「…どうしてあたしの名前」
 「仲良くなりたい人の名前覚えるのは当たり前だよ♪」
 「…そうですか」
 「仲良くなりたいな♪愛香ちゃんっ!」
 …うざ。だけど、内心ちょっとだけ嬉しかったんだ。こんなことを
 言ってくれる人がいて…。
 「…いいよ」
 「やったぁ♪」
 「…よろしく、高橋さん」
 「優奈でいいよ♪愛香って呼ぶね♪」
 「あ、うん」
 その時の優奈の笑顔は可愛らしくて…。優奈は明るくて元気で女の子らしい。
 すると、優奈は自分の携帯を取り出して赤外線送信をしようとしている。
 あたしの携帯にはアドレスなんて入っていない。だって必要ないでしょ。
 友達もいないし、家族だっていないから…だからあたしにとっての携帯は
 ただの暇つぶし。戸惑っているあたしを見た優奈は慣れた手つきで赤外線送信を
 終わらせた。初めて入った、友達のアドレス。嬉しかった。
 それからあたしは優奈と毎日のように一緒にいることが多くなった。
 優奈の話は面白くて、飽きなかった。その時自分の顔が少しゆがんだのがわかる。
 …今あたし、笑った?すると、優奈が嬉しそうな顔をして抱きついてきた。
 「愛香が初めて笑った♪」
 笑った。その言葉が凄く凄く嬉しくて…優奈と一緒にいると、嬉しいことばかり
 で毎日のように自分の顔がゆがむのがわかる。そしてあたしは徐々に優奈と
 打ち解けていった。新しいクラスになってから1週間が経った時のある日。
 1時限目からあたしの苦手な数学。と、いっても教科全部苦手なんだけどね。
 授業が始まる5分前くらいにあたしは席について授業の準備をしていた。
 すると、ガタンッ。その音にビックリして横を見る。すると、あたしの苦手な
 遠藤幸輔。また目があった。だけど、あたしはすぐにそらした。それからずっと
 視線を感じるけど、あたしはしばらく見なかった。授業が始まってちょっと
 経った時
 「…おい」
 「……」
 「おいっ!お前だよ」
 「…あたしですか?なんですか?」
 「頭に虫ついてる」
 …え?恥ずかしい…あたしは焦りながら頭を触る。すると、遠藤幸輔は笑って
 あたしに言った。
 「虫なんてついてねぇよ、ばかじゃねぇの?」
 「…よかったぁ」
 あ、心の中で思ってるつもりだったのに、言葉に出ちゃった。
 しかも、自分で顔が少しゆがんでるのがわかる。…笑ってる?
 「お前は笑ってる方が可愛い。暗くて泣きそうな顔すんな」
 そう言われた。笑ってたんだ、あたし。そして遠藤幸輔は授業が終わるチャイム
 と共に教室を出ていった。…なんだったの?それからあいつは教室へ戻って
 来なかった。そしてお昼、あたしと優奈はいつもどうり屋上で食べていた。
 お互いのお弁当を交換して食べたり、そしていつもどうりの優奈の話。
 聞いてるだけで楽しい。すると、いきなり優奈は真剣な顔をして言った。
 「今から言うこと愛香に話すのが初めてなんだけど…聞いてくれる?」
 「…うん」
 「あたしね、お父さんとお母さんがいないの。物心着いたときからおばあちゃんと
 おじいちゃんと暮らしていたからうちにはいないんだって思ってた。だけどうちが
 まだ小学校2年生の時、夜トイレに行くのでうちは起きた。そしたらおじいちゃんと
 おばあちゃんが話しててその話を聞いちゃったんだ。親がいないのは優奈が可哀想
 って。今からでも養子に出した方がいいってね。意味がまったくわからなかったけど
 うちがわかったことは、おばあちゃんとおじいちゃんとは一緒にいられないってこと。
 そしたら、その1週間後くらいに、おばあちゃんは急な心臓発作で亡くなった。
 原因はストレス・疲れ。そう聞いた時わかった。うちがおばあちゃんを殺した。
 うちさえいなければ死んでなかった。うちは必要ないってね。そしておじいちゃんは
 何もいわずに荷物をまとめてうちを施設へ送った。そしてうちはすぐに知らない
 家族に引き取られた。だけど打ち解けられなかった。最近なんて新しいお母さんが
 仕事で遅い時、新しいお父さんはうちに何したと思う…?レイプみたいなことだよ。
 だから本気で死のうと思った。だからうちはリストカットがやめられなくなった。
 だけど、愛香と出逢ってうちね、頑張ろうって思った。生きたいって。
 だから、笑って生きていたいんだ」
 そういう優奈は泣いていた。そっとあたしは抱きしめた。…辛い思いしてるのは
 あたしだけじゃない。優奈だってこんなにも辛い思いしてるのに笑ってる…。
 そして優奈は笑ってあたしに言った。
 「初めて人に話したから安心して泣いちゃっただけ!大丈夫だよ♪」
 「あのね、優奈。あたしも話すね」
 そう言ってあたしも初めて人にあたしの過去を聞いてもらった。気が付けば
 あたしの目からは涙が止まらなかった。すると、優奈も泣いていた。
 「…どうして…ッ優奈も…泣いて…ッるの…?」
 「…だってぇ…愛香は…うちよりも…ッ辛かったと…思うから…」
 …ありがとう、ありがとう優奈。そう言ってあたしたちは泣きながら抱きついた。
 …あたし、生きたいよ。優奈みたいに強くなりたい。笑っていたいよ。
 すると、優奈はあたしに言った。
 「笑う意味ってね…確かに…わからないよね。だけど…うちは幸せに…なるために
 笑うって…思ってるんだ。だからうちは…笑ってるの」
 …そうだよね。幸せになるために笑ってるんだよね。
 その瞬間あたしは自分に…そして優奈に誓ったよ。


 ―辛くても生きたい、笑っていたい―


 確かに辛いかもしれないけど、生きていたい。やっと見つけたよ。
 笑う意味。生きるために…笑うためだよね。
 だからあたしは笑いたい。そしてあたしと優奈は屋上に寝転がり2人で笑った。
 すると、どこからか声がする。
 「やっぱり、笑ってるお前が可愛いよ」