私とシェフは雅也を一瞬見て微笑んだ。
シェフに焼き加減を聞かれた雅也がしどろもどろになって固まってしまったので、手際よく私が焼き加減の指示をだした。
『かしこまりました』
目の前の鉄板にさっきのきれいな肉が音を立て始める

やがてビールが2つ運ばれ、すぐ後に山盛りに盛られたサラダが運ばれてきた。2人はよく冷えたビールのグラスを鳴らし乾杯する。
「お疲れ様、最近忙しかったみたいだから電話するの、どうしようかと思ってたんだ。でも今日アキの方から電話があってちょっと嬉しかった」

言って、雅也は冷えたグラスに口を付けゴクゴクとビールを喉に流しこむ。少し日に焼けた雅也のはだはとてもキレイなベルベットのようにも見える

「ごめんね、新店のオープンとSSの立ち上げが同時だったからバタバタしちゃって」

私の仕事はジュエリーデザイナー兼マーケティングディレクターで、さほど規模の大きくないこの会社では時と場合によっては営業もこなし社員教育もする。この不況の中、毎年確実に売上を伸ばしているのは、新しい物好きで勝負師な社長とそれを取り巻く幹部8人の強烈な個性があるからだと私は思っている。私も例のごとくその8人の中の1人だったりもするのだけど。