「俺、美味しい肉が食べたい」

さっき渋谷の西武前でピックアップしたボーイフレンドが助手席でちょうど胃の辺りに当てた手を上下に動かしながらお腹減った様子をアピールしていた。

「お肉がいいの?」
「うん、美味しいの食べたい」

3歳年下の彼とは知り合ってから2年ぐらいになる。たまに行くBARでたまたま隣同士になり、帰る頃には私に懐いていて、なぜか子犬のように私の後をついてきた。

「じゃあ、焼き肉か、ステーキ、どっちがいい?」

「俺今日は何か野生に近い感覚なんだよね、だからステーキがいい。なんだったら生肉でもいいぐらい」

「行きたいお店の指定ある?」

「ううん、俺、今色々考えられないぐらい腹減ってるからアキに任せていい?」
「うーん…じゃあ、この間、ウチの会社で行ったお店が六本木にあるから、そこに行こう」

私は2週間程前に会社の幹部会で行ったその店を思い出しながら車を走らせる。

「そこにしよう!!早くしないと、俺お腹すき過ぎで死んじゃうぅ…」

雅也(まさや)の訴えるような目と口調がつい可愛くて私はいつも彼を甘やかしてしまう。
「急ごう」
と言ってアクセルを踏み込んだ黒のBMWは渋谷から青山に抜け六本木を目指した