初め莉奈は何がどうなっているのか分からなかった。
男は令に首を掴まれ、片手で持ち上げられている。
令より二倍はある巨体が、地面から離れて浮いているのだ。

「あ‥な‥何してんのよ!」

莉奈は令の着物を掴み、男を降ろさせようと必死になる。

「た‥助けてくれ‥」

足をバタバタさせて、男はもがいている。
無表情のまま令は手を離し、男は地面に落とされ咳込んでいる。

「消えな」

令は男に吐き捨てるように言うと、男は這うようにして逃げていった。

莉奈は令に怯え、一方ずつゆっくりと後ろに下がった。
莉奈の怯えた姿を見た令は、口元に笑みを浮かべながら手を延ばし、莉奈の腕を掴んだ。

「死にたくなかったら付いてくるよな?」

莉奈は経験した事のないような恐怖感に襲われ、言われた通りにしなければ、この男に本当に殺される‥そんな思いで頷くしかなかった。



どこに向かっているんだろう‥

町を出て、かなりの距離を令と莉奈は歩いていた。
周りにはもう町の面影は全くなく、岩が転がり雑草が茂っている。
令は歩くのが早いため、莉奈は付いていくのに必死で、そろそろ疲れてきたころだ。
莉奈が逃げ出さない事を分かっているのか、逃げ出せないと思っているのか‥