「梓って、結構強情?」
「それを言うなら、遼さんが強引なんでしょっ」
お互い譲らず顔を見合わせると、どちらからともなく笑みが零れた。
「似たもの同士ってことかっ。はい、お疲れ様。ここでは簡単な打ち合わせくらいだから、そんなに時間はかからないよ」
握っていた手を離すとその手をふわっと頭におき、何度か撫でる。
「お利口さんにしててね」
「子供じゃないんだけど……」
ムスッとしている私の顔を見て笑いながら車を降りると、私も慌てて降りる。
身なりを簡単に整え、小走りに遼さんへと近づいた。
それに気づいた遼さんが微笑んだかと思うと、当たり前のように手を握られる。
な、何で打ち合わせに来てるのに手、握るの? ……と聞く間もなく、唖然としている私を引っ張るように建物の中へと入っていった。
一番奥のドアまで行くと、軽くノックをする。
「修(おさむ)さん、遼です。おはようございます」
声をかけると、中から「おうっ」の一声。
その声を確認してから、遼さんが徐にドアを開けた。
ソファーに腰掛けている、大きな背中が目に入る。後ろ姿なだけなのに、ものすごい存在感だ。
私も恐る恐る「おはようございます」と声をかけると、大きな背中がピクッと反応した。そして、まるで熊が獲物を探るように立ち上がると、ゆっくりと振り返る。なんとも言えない切迫した雰囲気に、思わず息を呑む。
「遼、おはようさん。可愛い女、連れてきたな」
そう言って、屈託のない笑顔を私に向けた。そのつぶらな瞳に、緊張していた身体の力が抜けていく。で、でも『可愛い女』って……。思わず「可愛くないっ」と言い返すところだった。
「修さんに紹介しようと思って。春原梓さん。俺の彼女」
私の肩を抱いて顔を覗きこむと、「ねっ?」とウインクしてみせた。
紹介するだけって言ったのに……。嘘つきっ!!
心の中では文句を言ってもそれを顔には出さず、笑顔を作るとペコリと頭を下げた。



