「梓? 梓、聞いてる?」
「えっ?」
遼さん、何か話してた? まったく耳に入ってこなかったよ。
「はぁ……。やっぱり聞いてなかったんだ」
大きく肩を落として悲しそうにする。少し大袈裟で芝居がかってるような気もするけれど……。
でも、聞いていなかったのは本当のことで、私の方が悪い。
「遼さん、ごめんね。ちょっと考え事してて」
「考え事……ね。それって俺のこととか?」
「…………」
ズバリ言い当てられて、動きが止まってしまう。こういった場合、どう答えたらいいものか……。まぁ、口篭った時点で認めたことになるんだろうけど。
「そう。遼さんのこと考えてた」
言ってしまうと、気分が楽なる。
逆に遼さんは、まさかそんな答えが返ってくるとは思っていなかったのか、驚きを隠せずにいた。一瞬、車内の空気が微妙に変化したような気がする。
「め、珍しく素直だね」
「珍しくは余分」
私にしてみれば、動揺を見せる遼さんの方が珍しいと思うけど。と言うのは、止めておこう。
「で、俺のどんなこと考えてたの?」
「それは秘密」
自分の気持ちの変化を、遼さんに言えるはずがない。言ったところで「おためしなのに?」と笑われるのがオチだ。
「ふ~ん……」
私の心を知ってか知らずか、意味ありげに返事をする。
しばらく「教えろっ!」「教えないっ!」と押し問答を繰り返していたが、そんな事をしている間に一つ目の目的地に到着してしまった。



