ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~


親が子供を心配するのは当たり前。それが年頃の女の子だったとしたら、尚更のことなのに、結婚を控えたこんな時に気づくなんて……。
何でもっと早く気づかなかったんだろう。

「お母さん、私、いい娘じゃなかったね。ごめん……」

顔を見て言うのは何となく恥ずかしくて、母に背を向けたままそう告げた。
すると母は後ろから私を抱きしめると、クスクスと笑い出した。

「何を言うかと思ったら、馬鹿なこと言って。いい娘って言うのがどんな娘なのか分からないけれど、梓がお父さんとお母さんのところに生まれて来てくれただけで、もういい娘なのよ」

ぎゅっと抱きしめてくれている腕が震えている。
もう六年も離れて暮らしてるのに、今更ながらに寂しくなってきてしまった。
母の腕の中でくるっと向きを変えると、自分からぎゅっと抱きついた。

「もう梓ったら、甘えん坊の子供みたい……」

そう言って笑いながら、母は泣いている。

「私、遼さんと幸せになるから……。今まで、ありがとう……」

二人でき合って泣いていると何かを感じたのか、普段は台所に来ない父がやってきた。
さすがに父に泣き顔を見られるのは嫌だったので、慌てて涙を拭う。
とは言っても泣き腫らした顔はすぐに戻らなくて、振り向くと大いに笑われてしまった。

「笑うことないのに……」

そして三人揃うと母が淹れてくれたお茶を飲みながら、思い出話に花を咲かせた。