そしてその日から結婚式の当日まで、遼さんの提案で私は実家で過ごすこととなった。
私としては一日だって遼さんと離れたくなかった。
でも遼さんの「産んでもらって今まで育ててくれたことのお礼を、ちゃんとしてくるべき」の言葉を聞いて、実家に帰ることに決めた。
帰った翌日からは、両親を連れて近場の温泉へ一泊二日の旅行へ行った。
美肌の湯と言われている温泉に浸かり、地元名産の味に舌鼓を打つ。
何年ぶりかの家族旅行に、父も母はとても喜んでくれた。
旅行から帰ってからは、今更かも知れないが花嫁修業と称して、母直伝の味を伝授してもらうため、台所に立った。
料理ができなわけではない。遼さんも私の料理を「美味しい」と褒めてくれる。
でもまぁそれは、“好きな人が作ってくれたら何でも美味しい”という効果かもしれないけれど……。
じゃこ入りだし巻き卵に白醤油で味付けした唐揚げ。特に好きな二品を調理しながら、その分量や手順をノートに書き込んでいくと、母がしみじみと話しだす。
「梓、ほんとにお嫁にいっちゃうのね……」
「な、なによ、今更そんなこと言っちゃって」
母の思ってもない言葉に、胸がキュンと切なく痛む。
学生の頃、一人っ子だったせいか過剰に接してくる母が疎ましく、就職が決まると距離を置きたくて家を出た。
それからは付かず離れずの関係を保っていたけれど、今の言葉と母の顔を見て、今頃気づいた。自分のしたことが間違いだったんだと……。



