「遼さん一人だけが悪いわけじゃない。だから、そうやって自分を責めるのは止めて。お兄さんだって、いつかきっと分かってくれる」
「……そうね。梓さんの言う通りだわ」
後ろから聞こえる声に振り向くと、いつの間に来ていたのか、百合さんが少し呆れたように笑って立っていた。
遼さんも涙を拭うと、こちらに向き直した。
「全く、何話してるかと思えば……。遼くん、あなたはもうすぐ新しい家庭を持つのよ。いつまで昔のことを引きずるつもり?」
「百合さん……」
「そんなんじゃ、私のお気に入りの梓さんを任せられないわね」
フンッと澄まして見せると私の腕を掴み、遼さんから引き離した。
呆気にとられる私をよそに、百合さんは遼さんに詰め寄った。
「いいことっ! ここで少し、頭でも冷やしてなさいっ!!」
そう言うと、よく冷えた缶コーヒーを遼さんの頬に当てた。
「冷たっ!!」
いきなり百合さんの手から離れた缶コーヒーを、遼さんが慌てて拾っている間に、私は百合さんに連行されてしまう。
「じゃあ、しばらく梓さん借りるわねぇ~」
遼さんの、呆然と立ち尽くす姿が小さくなっていく。
私を引っ張っている百合さんの顔を見れば、楽しそうに笑っている。
「百合さん?」
「遼くんの最後の顔見た? 面白かったわね」
「は、はぁ……」
「もう遼くんは大丈夫。さぁ、お母様がお待ちかねよ」
チャーミングなウインクをしてみせると、奥のフィッティングルームへと連れて行かれた。
あっという間のことに何がなんだか分からないけれど、やっぱり百合さんには勝てそうもない。



