「ほら、お兄さんのことがあって、私たちもう終わりかなぁ……なんて思ってたのに、今こうやって結婚に向けて進んでる。それだけで十分」
遼さんの顔を見てニッコリ微笑みかけてみたが、彼は悲しげな顔をし俯いた。
「梓、ごめんな。今でこそあんなふうになってしまったけど、子供の頃の兄貴は優しくて、いつも俺のことを気にしてくれてたんだ……」
そこまで言うと遼さんは、言葉をつまらせた。泣いているのだろうか……。
私はそのまま手の甲を撫で続け、遼さんの言葉を待った。
「ごめん……ちょっと昔を思い出した。本当に温かい家族だったんだ。どこかでボタンを掛け違えてしまった。俺たち家族は……」
「遼さん……。でも今、それを元に戻そうとしてるじゃない?」
私の言葉に、遼さんは首を横に振った。
「きっと兄貴自身も会社のしがらみに巻き込まれて、ああいう人間にならないとやっていけなかったんだろう。俺には計り知れない苦労があったはずだ。それなのに俺は、自分ばかりが苦しい思いをしていたと嘆き悲しみ、好き勝手やっていた。最低だよな……」
横を向いてしまった遼さんの背中が、小刻みに震えている。
きっと自分が昔犯してしまった行為を、悔いているのだろう。
撫でていた手を離し背中に両手を当てると、震えていた身体がピタッと止まった。
その背中にそっと話しかける。



