朝まで一緒に過ごせると聞いて、勝手にラブホテルだと思っていた私は、こんな超一流ホテルに動揺してしまった。
カフェやラウンジのランチバイキングに来たことがあっても、泊まるのは初めて。
ホテルマンが近寄ってきて助手席のドアを開けてくれても、足が竦んで動けない。
すると車を降りた遼さんが手を差し伸べてくれた。その手を握り、車から降りる。
「そんなに緊張しなくていいよ。もう目も腫れてないしね」
あ、そうだった。私の顔、おもしろいことになってたんだよね。そのことを思い出すと恥ずかしくなって、俯き気味に歩き出す。
遼さんがホテルマンみ補助キーと名前を告げると、エスコートされてホテルのフロントに向かった。
少し手前で「ちょっと待ってて」と言われ、窓際にあったソファーに座り外を眺めていた。
目の前の幹線道路は土曜日の夜だからか、さっきまで見られなかった渋滞を起こしている。
ホテルの前を歩いている会社帰りと思われる十数人のグループは、これから忘年会だろうか。みんな楽しそうに少し先の居酒屋チェーンへと入っていった。
「来週末はクリスマスイブか……」
そうだ。遼さんと“おためし”恋愛の話をしてから、もうすぐ一ヶ月。
結局あの話は、どういうことだったんだろう……。
今晩は、遼さんに聞くことがたくさんありそうだ。
「お待たせ」
不意に肩を叩かれドキッとしながら振り向くと、頬に指が当たった。
「遼さん、それ古くない?」
溜め息をつきその指を掴んで立ち上がると、遼さんが私の目の前にカードキーをかざした。



