「あぁ俺。……お前、やってくれたな。この礼はまた今度たっぷりしてやる。今晩だけど……よく分かってんじゃないか。……あぁ、よろしく頼む。明日の準備までには戻る」
そう言って携帯を切ると、私に向かってOKサインを出した。
何がOK? 誰と電話してたの?
黙ったままお伺いを立てるような視線を送ると、手を伸ばし頭をくしゃくしゃと撫でた。
「雅哉に電話した。今日は戻ってこなくていいってさ。だから今晩はずっと一緒にいられる」
頭にあった手を滑らせ頬に移動させると、その手に甘えるように顔を押し当てた。
「梓をいっぱい泣かせたからね。朝までじっくり時間を掛けて、その責任を取らせてもらうよ」
甘く囁きながら顔が近づきてきて、チュッと唇を重ねた。
ほんの一瞬合わさっただけの唇から遼さんの熱い思いが伝わってきて、また泣きそうになってしまった。
涙が溢れる前に私からもキスを返し、その思いを伝える。
「やっぱりヤバいな。もう我慢も限界だ」
「う、うん……」
私の返事を聞くと後部座席に手を伸ばし、シャツを手にした。
「この前買ったの、車の中に忘れてて良かった」
ニッコリ笑うと、私のメイクと涙で汚れた服を脱ぐ。その時、彼の思っていたより筋肉質な身体が見えて、慌てて目を逸らした。あの身体に抱かれるかと思うと心拍数が上がってドキドキが止まらない。
着替え終わるとハンドルを握り、店に戻るのとは反対の方向に車を走らせた。
お互いにこの後のことを考えて緊張しているのか口数も少なくなっていると、繁華街のビル群が見えてきた。
そしてひとつの大型ホテルの手前に差し掛かるとスピードを緩め、正面玄関前に車を停めた。



