「じゃあ母さん、百合さん。また来るよ」

「お邪魔しました」

車に乗り込み挨拶をすると、お母さんと百合さんが車が見えなくなるまで手を振り見送ってくれた。

「悪かったね、梓。母さんも百合さんも、梓が気に入ってテンション上がっちゃったんだろうな」

「気にしてないって言うか、かえって嬉しいかも」

「そう? なら良かった」

気分良さそうに前を向くと、ハンドルを持つ手もどことなく軽やかだった。
しかし赤信号で止まり小さく息を吐くと、何かを思い出したのか落ち込んだような顔を見せた。

「ところで、身体の方はもういいの? 倒れたって聞いた時は、心臓が止まるかと思ったよ」

ハンドルをグッと握り締め、悲しそうに肩を落とす。

「そんな、心臓が止まるなんて大袈裟だよ」

「俺が不甲斐ないばっかりに、梓をそこまで追い詰めたんだ。ごめん……」

あれは全部が全部、遼さんが悪いわけじゃない。そんなことを言うなら、遼さんのことを信じてあげられなかった私にだって、非があるというものだ。
私の方こそごめんなさいの気持ちを込めて、黙ったまま遼さん手に自分の手を合わせる。

「冷たい……」

遼さんの冷えた手を暖めるように擦ると、遼さんが慌てて手を引っ込めてしまった。

「う、運転中はヤバい……」

「えっ? でもいつもは運転中でも手、握ってたじゃない?」

運転している遼さんの顔を覗き込むように見れば、顔を赤く染めて目線を逸らしてしまった。