「遼さん、お久しぶりです。戻ってきてくれて、あずみ嬉しい」
小さい頃から両親に溺愛されて育ってきたあずみは、根っからのお嬢様だ。
かなり久しぶりに会ったけれど、その口調から自分勝手のワガママぶりは変わらないようだった。
「あぁ、あずみ久しぶり」
真顔のままそう答えると、不服だったのか頬を膨らませ、兄貴へと近寄っていった。
「暁お兄さま。遼さん、あまり嬉しそうじゃないんですけど……」
「久しぶりに会ったお前が綺麗になってて、照れてるだけだろ」
「まぁ、そうだったのね。うふふ」
な、何だ、この会話は……。
それに、この二人の密着度。
今も兄貴があずみの頬を撫でて、可愛がっている。
普通するか? 婚約をしようとしている男の目の前で。
まるで、当主とその妾みたいじゃないかっ。
って、百合さんには申し訳ないが、俺には関係のないことだ。
しかし、二人の訳の分からないやり取りに、頭が痛くなってきてしまった。
「兄貴、ちょっと悪い。トイレ行ってくる」
聞こえていないのか、返事をしない二人を放っておいて部屋を出た。
「マジで頭が痛くなるな」
凝りを解すように、肩に手を当て首を回す。
別に本当にトイレに行きたかったわけじゃない。少し気分を変えたくて、裏口から外に出た。
風に木々が揺れ、木漏れ日が身体の所々を暖める。
近くにあった古い椅子に腰掛け目を閉じると、正面玄関の方で車が停まる音がした。
「百合さんが帰って来たか」
なら、もうしばらくここにいるか。
もう一度目を閉じると、この後をどうするか考え始めた。



