「お前なぁ。父さんに向かって、その口の聞き方はないだろうっ」
お兄さんが食って掛かろうとしたのを、お父さんが抑えた。
「暁、ちょっと落ち着け。お前は血気に逸りすぎていかん。もう少し、冷静になることを覚えろ」
お父さんのそう諭され、お兄さんが罰が悪そうに上げかけていた腰を下ろした。
こんな状況なのにそれを見た奥さんは、肩を震わせて笑っている。
自分の旦那の失態が、面白いとでも言うのだろうか。
奥さんと目が合うと舌をペロッと出して、愛嬌たっぷりの顔をしてみせた。
やっぱりこの奥さん、只者じゃない。敵にはしない方が懸命そうだ。
「親父。俺はもう、小野瀬とは関係のない人間だ。俺に何かを期待するのは止めてくれないか? 兄貴を使って、やることがいちいち姑息だろ?」
「それがお前の言い分か? でもな、お前がどんなに嫌がっても、小野瀬には変わりないんだ。が、しかし……今回の話は急かし過ぎた。申し訳ない」
「親父……」
頭を下げているお父さんを見て、遼さんは驚きが隠せないようだった。
遼さんがお父さんのことをよく思っていないのは分かっているけれど、今目の前にいる白髪の男性からは、悪い印象は感じない。
それどころか、どこか温かく優しい人柄が滲みでていて、部屋の空気までをも変えてしまっているようだった。



