ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~


「遼さん?」

「ちょっと黙ってて。なぁ兄貴」

「何だ?」

「俺が今日ここに来たのは、小野瀬には戻らない、婚約もしない。そして、今ここにいる梓と一緒になることをもう一度言いに来ただけだよな? その腹いせに、また梓に何か言ったのかっ?」

口調が荒くなり突っかかるような遼さんの物言いに、お兄さんも黙ってはいなかった。

「勝手なことばかりして散々迷惑かけてきたっていうのに、小野瀬には戻らない? 婚約もしない? はっ!  よくもそんなことが言えたもんだっ。春原さん、この前も話した通りこいつは女にいい加減だぞ。何人の女を泣かせてきたことか……」

「兄貴っ!!」

間髪入れずに叫ぶ。
遼さんもさすがに今の言葉には動揺したのか、身体を抱く力が緩んだ。
その隙に身体を離すと、遼さんに笑顔を見せてからお兄さんに向き直る。そして大きく息を吸い込むと、ゆっくり息を吐き心を落ちつけた。

「今お兄さんが言ったことについて、ここで深く論争するつもりはありません。ただそれは昔のことであって、今の遼さんのことではない。私はいろんなことを乗り越えてきた、今の遼さんが好きなんです」

「ふんっ。口では何とでも言える。そんな綺麗事がいつまで保つか」

呆れたように鼻で嘲ると、偉そうにソファーへともたれかかった。

綺麗事───

確かにそうかもしれない。遼さんの昔の話を聞いた時、私は大きなショックを受けた。そしてそのことを、お兄さんの言うことを全部信用してしまい、情けないことに自分から遼さんと距離をおいてしまった。
そんな私が言うことだ。信憑性に欠けるし説得力がない。