「お、お前っ! 春原梓じゃないかっ!! 何しに来た? ここはお前なんかが来るところじゃないだろっ!! お前はバカかっ!!」
すごい剣幕で立ち上がり、いきなり罵声を浴びせられた。
何で私が、お兄さんにバカ呼ばわりされなきゃいけないんだっ。これにはさすがの私も頭にきた。
でもここですぐに言い返すほど、私もバカじゃない。手を痛くなるくらいグッと握り怒りを沈めると、奥さんの横に立ち顔を前に向けた。
「先日は失礼しました。今日はこの500万の小切手をお返しに参りました」
バッグから封筒を取り出すと、バンっと派手な音をわざと立ててリビングテーブルの上に置いた。
「何?」
お兄さんの顔が、険しく歪む。
たった一言発しただけなのに、その威力に負けそうになる。
そんな私に気づいたのか、奥さんが私の腰に手を回すと、顔を耳元に近づけ小さな声で囁いた。
「大丈夫って言ったでしょ。言いたいことがあったら、全部言っちゃいなさい」
さっきまでの天然キャラとは違う真面目なトーンでそう言われ、コクンと頷くと一歩前に歩み出た。
「遼さんを私に下さいっ!!」
って私ったら、何トンチンカンなこと言ってるのよっ!
これじゃあ、彼女のお父さんの前で、結婚の承諾を得る男のセリフみたいじゃないっ。
でも勝手に口が喋ってしまったんだから、今更どうしようもない。
それにあながち間違いじゃない。
私は遼さんが欲しい───
遼さんの全部が欲しくて、たまらなかった。



