今の声は、紛れもなく遼さんのお兄さんの声。そしてその人を“あなた”と呼んだあこの女性は、お兄さんの奥さん?
驚きで凝視したまま掴まれていた手を無理矢理離すと、一歩後ずさった。
「す、すみません。私、中に入るわけには……」
「でもあなた。遼くんに会いに来たんでしょ?」
「えっ? 何でそれを……」
ふふんっと鼻歌交じりに得意げな顔を見せると、もう一度私の手を掴んだ。
「女の勘って言うのかしら。私が付いてるから大丈夫。心配しないで。ね?」
ね? と言われたって……。お兄さんの奥さんだからって、その自信は、どこから出てくるんだろう。
でも、もうこうなったらしょうがない。あまり当てになりそうも無いけど、ここは奥さんを信じるしかなさそうだ。
奥さんが私にピースサインを決めてみせると、勢い良く扉を開けた。
あとに続き恐る恐る中に入ると、まだ顔は伏せたまま、奥さんの後ろに立った。
「あなたぁ~こちらは……。あらイヤだ。私ったら、まだあなたのお名前聞いてなかったわ」
そこに今頃、気づくなんて……。私が話し出そうとする前に、手を掴んで歩き出したんじゃない。やっぱりこの人、天然キャラだ。
誰にも聞こえないくらい小さな溜め息をつくと、彼女の耳元に名前を告げた。
「あらっ、あなた梓さんって言うの? あずみさんと一文字違い。ね、あずみさん?」
あずみさん? 誰?
奥さんの背中から顔を覗かせると、お兄さんの隣にまるでお人形さんのように座っている可愛らしい女性がいた。



