ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~


店に到着すると、裏口へと廻る。
ドアの前に立ち服を整え深呼吸をすると、音を立てずに中へと入る。
その奥にあるもう一つのドアの向こうでは、包丁で何かを切っている音がしていた。
ドアノブに手を掛け小さく息を吐くと、一気にそのドアを開けた。

「遼さん、ごめんなさいっ!!」

いきなり謝るのはどうかと思ったけれど、まずは自分の不甲斐なさを詫びたかった。
頭を下げた向こうから何か返事が帰って来るのを待っていたが、一向に帰ってこない。返事をするのも嫌なくらい怒っているのかと不安になりつつ、ゆっくり顔を上がると、そこには呆然と立ち尽くす雅哉くんがいた。

「あ、あれ? 雅哉くんだったのね。ごめん。遼さんだと思って……」

「梓さん……。来るの遅いよ」

「どういうこと?」

来るのが遅い? 
遼さんに何かあったんだろうか……。
さっきまでの胸の高鳴りは、いつしか嫌な予感で包まれてしまっていた。

「遼兄、実家に帰ったよ」

嫌な予感、的中───

「実家に帰ったって……。ここにはもう戻ってこないの?」

「さあ……どうなんだろうね」

それだけ言うと、握っていた包丁を置き、ズカズカ歩いて私の目の前までやってきた。

「ちょ、ちょっと、距離が近いんだけど……」

その顔は怒ってるみたいだ。
私、雅哉くんを怒らせるようなことしたっけ……。
あまりにも鋭い目に耐えられなくなって逸らすと、グッと肩を掴まれた。