ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~


バスに揺られること40分。
三週間前に来た時は車だったから感じなかったけれど、思っていたよりも遠くてバスの振動でお尻が痛くなってきた。
ふと見たことのある景色が目に入り視線を動かすと、次のバス停を知らせるアナウンスが流れた。

バスから降りると、目の前に緩やかな長い坂が伸びていた。
この坂を登り切ったところに、今日の目的地がある。
意を決めその坂に挑むように立つと、地をしっかりと踏みしめながら、一歩ずつ足を進めた。

「疲れた……」

三分の二ほど登った所で、足が止まる。
自分の体力の無さに肩を落とすと、前方から来た女性に声を掛けられた。

「あなた、大丈夫? この坂を登ってると言うことは、うちに御用かしら?」

坂の下には何軒か家が建っていたが、ここまで来ると目の先に見える家一軒だけだった。
と言うことは、この素敵な女性は……

「あのぉ……誠さんの奥様ですか?」

その女性は私の問いに一瞬驚いたような顔をしたものの、すぐにニッコリ微笑むと腕を絡めてきた。

「え? えっと……」

「はい、私は誠さんの奥様です。ところで、あなたは?」

茶目っ気たっぷりにそう言うと、楽しそうにふんふんふ~んと鼻歌を歌い出した。
私がどう答えようか言い淀んでいると、クルッと顔を覗き込み人差し指を指した。

「当ててあげましょうか? あなた……遼ちゃんの大切な人よね?」

言葉は疑問形だったけれど、その顔は確信を持っているようだった。