ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~


週末の土曜日、朝早くに起きて支度を整えると、早々に家を出た。
外は雲ひとつない良い天気。今日の私の気分を表しているような、そんな天気に少しだけテンションが上った。

足早に地下鉄の駅に向かい、会社へ行くときとは反対のホームに立つ。
いつもは全く気にならない地下鉄特有の匂いが、ゆるい風と共に鼻を掠めた。
ホームに入ってきた電車が終点まで行くのを確認すると、中に乗り込んだ。
土曜日のそれもまだ早い時間だけあって人はまばらで、座席にも心配なく座れた。

終点までは20分───

この路線は地下鉄なのに何故か4つ先の駅から、高架で外を走っている。
この街の中心部から、メインストリート沿いに走る電車からの風景が、子供の頃から好きだった。
その風景をぼんやり眺めていると、あっという間に終点に到着してしまった。
終点で停まった電車は、すぐには発車しない。他の乗客が全員降りるのを待ってから立ち上がり、ホームへと降り立つ。
気持ちがいい爽やかな風が、頬を撫でていく。
一番近くの階段を降り改札を抜けると、学生の頃友達とよく行ったドーナツショップが目に入る。
この駅界隈も、頻繁に来ていた頃に比べると随分様変わりしたが、このドーナツショップと並びの店は変わらず、昔のままだった。

懐かしく感じながらドーナツショップに入り、お気に入りのドーナツを数点購入。
その箱を持って、今日の目的地に行くためのバス停を探した。