「本当はこんなこと話したら、社長に怒られるんですけど……」
この人は、今日遼さんのお兄さんが私に何を話したのか知っているんだ。だとしたら、話を聞いても損はないだろう。
店から離れるに連れ気持ちも落ち着き、精神的にも普通の判断が出来るまで回復してきていた。
「私が話さなければ、バレることはないと思います」
「そうですね。あなたが賢い人で良かった」
人懐っこそうに笑う顔は、もしかしたら私より若いかもしれない。
しかし次の瞬間、顔を真剣なものに変えると、ハンドルを握りしめた。
「手切れ金、受け取りましたか?」
「断りましたが、無理矢理受け取らせられました」
「そうですか。社長、今回はかなり焦っているみたいで……」
焦ってる? 会社で何かあったんだろうか。
「どうしても弟さんに会社に戻って欲しいみたいです。そして、許嫁の方との結婚は、絶対に成功させなくてはいけないと……」
「そう、ですか……」
その為の500万……。お兄さんは本気なんだ。
そして遼さんは、それを断るために私と“おためし”と称して付き合って、結婚相手として会わせるつもりだったんだ。
私、遼さんに上手く利用されていただけだったんだ。
そんなことにも気づかず、おためしのつもりが“本気”になってしまうなんて……。
私ひとり、バカみたい────



