ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~


「全くあいつも酷い男だよ。こんな可愛い女の子を騙すなんて。昔からあいつは女癖が悪くてね。若いころは女を取っ替え引っ替えして遊びまくっていたんだ。挙句の果てに、何人かの女を孕ませてしまってね」

「うそ……」

「嘘じゃない。こっちはその後始末に、随分と苦労したからね」

心底困ったように息を吐くと、目の前のお酒に手をつけた。

そんな言葉、信じない。遼さんはそんな人じゃないっ!!
彼を信じたいのに、土曜日に何も話してくれなかった遼さんの態度が、私の気持ちを困惑させる。

「君の身体を傷つけてしまう前に手を打てて良かった。それと、このことをあいつが知ったら、何をしでかすか分かったもんじゃない。もう遼の前に姿を現さないほうがいい。君のためを思って言ってるんだ。分かったね?」

本当に心配して言っている言葉かどうかは分からない。
とにかく、私が遼さんのそばにいたら困るということだろう。
脅迫とも威しとも取れるその言葉に、私はコクリと頷いてしまう。
今は何も考えたくない。この場から、すぐにでも立ち去りたい。
カバンを掴み立ち上がると、お兄さんに頭を下げた。

「食事はしていかないのか? ここの料理は美味いぞ」

「結構です。話しはそれだけですよね? 今日はもう失礼します」

座卓に置かれている小切手はそのままに部屋を出て行こうとすると、お兄さんに腕を掴まれてた。

「これは忘れずに持って行ってくれ」

「受け取れませんっ」

それを受けとってしまうと、遼さんを裏切ってしまうような気がした。
今はまだ気が動転してしまって、何をどうしたらいいのか分からないけれど、それだけは受けとりたくなかった。
しかしそれでは困るお兄さんは、私のカバンに無理矢理それ入れてしまう。