ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~


遼さんが小野瀬建設に戻る? それは『secret garden』をたたむということ?
そんな話は聞いてない。それどころか、おためしで付き合い始めた頃に、一緒に店を的なことを言われたくらいだ。
だから、お兄さんの言っていることは信用しにくい。

「それと時間がないから急遽、君のことも調べさせてもらった」

「私のことをですか?」

「ああ。いきなり『彼女だ、結婚しようと思っている』なんて言うから驚いたが、君たちは“おためし”で付き合っているみたいだね。あいつも焦って、そんな話を持ちかけたんだろうなぁ」

「焦って? 何にですか?」

「あいつには幼い頃から決まっている許嫁がいてね。その人との婚約が今月末に迫ってるんだよ。彼女ともお互い好き同士なのに、まだ店を続けたいからと先延ばしにしてて」

実は困っていたんだよ__

許嫁? 好き同士? 一体何を言っているのだろう。
遼さんは、私のことを好きだって、愛してるって言ってくれたのに……。

「君には迷惑をかけたね。あいつの我儘に付きあわせてしまって」

そう言うと、一枚の紙切れを私の前に差し出した。

「それは慰謝料とでも思ってくれたまえ。申し分ない金額になっていると思うが」

小切手の額面は五百万円。これで遼さんと手を切れということだろう。
身体がわなわなと震えだす。それが怒りなのか悲しみなのかは分からない。
でも止めようと思えば思うほど、震えは強くなってきてしまう。