ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~


「顔をあげなさい。そのままじゃ話ができない」

そう言われても……と思いながらも、恐る恐る顔を上げる。
するとそこには遼さんに似た顔があり、一瞬ドキッとしてしまった。

「あいつが女を作るとはね」

顔は似てるけれど、中身は全く別人のようだ。
言葉のひとつひとつに棘があるというか、嫌味が混じっていて気分が悪い。

「それで、お話というのは何でしょうか?」

早く話を聞いて、こんな場所からおさらばしたい。
イライラとした気分を悟られないよう平静を装い、じっとお兄さんを見据える。

「あぁそうだった。私が誰かは知っているね?」

「遼さんのお兄様だと……」

「それはそうだが。小野瀬と聞いて、君は何も感じないのか?」

「小野瀬……」

遼さんが小野瀬なのは前から知ってるけれど……。
それがどうしたというのだろう。
心当たりがなく首を傾げていると、フッと人を小馬鹿にしたような笑いが聞こえた。

「小野瀬建設。会社名くらい聞いたことがあるだろう。そこの会長が遼の父親で、俺が社長をしている」

「小野瀬建設って……」

いくら私が無知と言ったって、国内トップクラスの建設会社くらい知っている。
その知名度は国内のみならず、世界にも名を轟かしていると言っても過言ではないだろう。
そこの会長がお父様で、社長がお兄さん。と言うことは……。

「やっと分かったみたいだな。今はあんなチンケな店をやってるが、あいつには近々我が社に戻ってきてもらうことになっている」

「えっ?」

お兄さんの言っていることがすぐには理解できず、合わせていた目線を外した。