車内では一言も口を開かないお兄さんに、恐怖心しか沸き起こって来ない。
その緊張から、どこをどうやってここまで来たのか全く覚えていないけれど、いつの間にか一軒の高級そうな料亭の前に車が停まっていた。
運転手がドアを開けると、お兄さんが先に降りる。それに続くように、私も車を降りた。
「ついて来なさい」
運転手さんに頭を下げてから、お兄さんの後を追う。
手入れが行き届いている日本庭園を横目に歩いて行くと、重そうな横開きのドアが開けられた。
中には和服姿がよく似合う、美人な女性が正座をして待っている。
「いらっしゃいませ、小野瀬様。いつものお部屋をご用意させて頂きました。さぁどうぞ」
「あぁ。女将、いつも悪いな」
いつもこんな高級な店を使うんだ。
やっぱり、遼さんのお兄さんって何者?
車の中より緊張しながら靴を脱ぐ。
女将さんに連れられてきた部屋は、さっき歩いてきた時に見えた日本庭園が見渡せる素敵な部屋だった。
私の部屋がすっぽりと収まってしまうくらいの広さの和室に床の間が付いている。高そうな掛け軸に高そうな花瓶。そこに綺麗な花が生けてあった。
「何をそんな所で突っ立ってる。さっさと座りなさいっ」
強い口調に身体がビクッと跳ねると、慌ててお兄さんの前に席に座った。
怖くてなかなか顔が上げられないでいると、さっきとは違う柔らかい口調でお兄さんが話しだした。



