「竹中さん、知ってる人?」
透かさず枝里が詰め寄る。
「いや、多分別人だ。ごめん」
私に向かって「気にしないで」と付け加えると、それ以上は何も言わなかった。
私も特に気にすることもなく、話を続けた。
「とにかくお兄さんに出現によって、遼さんの態度は一変しちゃったんだよね」
「只者じゃないね、その兄貴」
枝里が探偵よろしく腕を組むと、う~んと唸り声を上げた。
「ん、何よ?」
「まっ、私が考えることじゃないか。梓、頑張んなっ」
そうあっけらかんと言って、私の肩を叩く。
さっきの唸り声は何だったのよっ!
呆れて枝里を見てみれば、もう次に何を歌うか考えてるし……。
まっ、しょうがないか。カラオケをしに来てるんだからね。
苦笑して横を見れば、真規子も同じように苦笑していた。
「枝里は変わらないよね。あれでも一番にあんたのこと心配してるんだよ」
前に出て曲が流れるのを待っている枝里を見ると、柔らかく微笑んだ。
「分かってる」
「そう? 分かってるならよろしい」
そう偉そうに言う真規子だって、昔から心配性で……。
いつも二人には感謝の気持ちでいっぱいだ。
この気持ちを忘れないで、明日にでも遼さんのところに行ってみよう。
そう心に決めると、カラオケに来るといつも三人で歌う曲をリクエストした。



