ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~


『今晩予定が無かったらカラオケでもって誘おうと思ったんだけど、そんな気分じゃなさそうね。どうする?』

全くもって歌いたい気分じゃない。と言うより、今は誰にも会いたくなかった。

「気が向いたら行く。場所と時間教えて」

『了解。真規子も来るし、気分転換しにおいで』

「そうだね」

テーブルの上にあったレシートの裏に場所と時間を殴り書きすると、スマホを切った。

「Y'Sカラオケに6時かぁ……」

いつもの私なら、もうとっくに『secret garden』にいる時間。
まだそれほど混んでなく、遼さんや雅哉くんたちと話をしながら、一杯目のカクテルを味わってる頃だろう。
別に、店に来るなと言われてるわけじゃない。普通の顔をして行けば、いつもと変わらない時間が過ごせるかもしれない。
でも今日の私は、その“普通”の顔が出来る自信がなかった。
それに、遼さんがいつもと変わらず“普通”にしていたら、それはそれで不信感が募るだろう。

---何で、何も話してくれないの?---

考えれば考える程、悲しくなってきてしまう。
自分は俺のことを信用しろと言うのに、私は信用されてない?

「本当の恋人になれたと思ったのに……」

遼さんから一向に掛かってこないスマホを見つめ、また深い溜め息をついた。