遼さんの身体が一瞬ピクッと反応を見せたかと思うと、首筋にキスをした。

「喜んで」

耳元から伝わるその甘い言葉は、しばらくの間、私の中から消えることはなかった。


近くにある中央広場の時計台が、正午を知らせる鐘を響かせる。
それが合図だったように遼さんが身体を離すと、私を反転させた。

「お腹空いたね。そろそろ時間だから行こうか」

愛おしそうに私の手を取るとそのまま持ち上げ、手の甲にキスを落とす。
それはさながら、王子様がお姫様にする情景に似て、私をドキドキさせた。

「どこかの国の王子様?」

上目遣いに聞けば、少し照れたような顔を見せる。

「ちょっとキザだったかな。でも頬を赤く染めた梓を見ていたら、やらずにはいられなかった」

どこの大国の王子より情熱的な表情で、私の心を虜にする。
そんなことしてもいいの?
もう契約期間は終わりだって言ったって、あなたのそばから離れてあげないんだから……。

掴まれている手をスルッと抜くと、遼さんの腕に自分の腕を絡める。身体を寄せ肩にもたれ掛かると、ゆっくり言葉を紡ぐ。

「おためしの恋愛期間が終わっても、ずっと遼さんのそばにいたい。私を遼さんの本当の彼女にして下さい」

真っ直ぐ前を見据えたまま、黙っている遼さん。

お願い……。
私の心がまた凍ってしまうような言葉は言わないで__

私をひとりにしないで__