「遼さんっ、余所見してないで皆のカクテルも作ってあげて」
そうだった……。
梓のことは気になるが、今は仕事中だ。
神経を集中させて手早く残りのカクテルを作ると、チラッと梓を横目に見る。
なんだ、雅哉にカクテルを作ってもらってるのか。
って言うか、こっちは気にならないのかっ!
俺が五人もの女に囲まれてるんだぞっ!!
なんて、だからどうしたって話だよな、梓にとっては……。
少しは気にしてくれてもいいのに。
ちょっと不貞腐れていると、佐々木さんがまたもや胸を押し付けるようにくっつき、顔まで近寄せてきた。
おぉっ、今日一番の近さじゃないかっ!?
こんな時に限って、梓の視線を感じた。
超マズいっ!!
するとカウンターから、あり得ない注文をする梓の声が聞こえてきた。
「ビール一杯っ。早くしてっ!!」
カウンターを見ると、雅哉が困った顔をしていた。
それでも言われるがままにビールを出すと、こともあろうかそれを一気に飲み干した。
あのバカがっ!!
確かビールは苦手で弱いはずだ。それを一気に飲むなんて。
呆れるやら怒れるやらでイライラしていると、梓がバッグを持って席を立った。
それまでに何度か佐々木さんから声を掛けられていたが、今はそれどころじゃない。
「ちょっと失礼します」
断りを入れると、たった今店を出て行った梓を追いかける。
すぐに姿を見つけると、足取りが危うい。やっぱりビールの一気飲みが効いたか。
あっという間に追いつくと、梓の細い腕を掴んだ。



