「…っ、行って来ます」
赤くなった顔を隠すように車から降り、校門に向かって走った。
心臓がバクバクうるさい…
あんな康君…知らない…
昔の優しかったお兄ちゃんじゃなくて、大人の男性だった。
「お嬢様!」
ちょうど校門を潜ったとこで、私を呼ぶ声が聞こえた。
足を止めてゆっくり振り返ると、車の前に立ち優しい笑顔を向ける康君の姿があった。
「行ってらっしゃいませ」
「…っ!」
登校中の女子生徒が立ち止まり、遠巻きに頬を赤く染めている。
それほど綺麗な立ち姿だった。
昼休み。
屋上で弁当を食べながら、山下さんにぐるぐると渦巻く自分の心情を話した。
「本当にわからないの?」
会長に対しての想いを全て話し終わった後、ずっと黙って聞いてくれてた山下さんの第一声がこれ。
「…っう…わかんない…」
昨日感じた想いの全てが、私の中に沸き起こった初めての感情で正直よくわからない。
わからなくて、モヤモヤする。
食べ物が喉を通らなくて、弁当箱にはトミさん特性の唐揚げやらおにぎりが手付かずで残ってる。
手に持ったフォークにはずっと鮮やかな黄色の卵焼きが刺さったまま。
「それはね、好きなのよ。会長のことが」
…好き…?
私が…会長を…?

