君のいる世界





「…その反応、やっぱりキスマークなんですね?」



康君の瞳の奥が一瞬キラリと光った気がした。


それは目を逸らすことを許さないぐらい力強い眼差しで、金縛りにでもあったかのように身体が動かない。




「…っ、こぅ…君…?」



康君は運転席から斜め後ろに座る私の方へ身を乗り出し、右手で私の後頭部を支えた。


そして康君の手に力が加わり、ゆっくりと頭を引き寄せられていく。




顔が近くなるにつれて胸の音が大きくなり、車内に流れる洋楽のメロディーが遠のいていった。


鼻先がくっついてしまう程近くにある整った顔。




に…逃げられない…!!




私は息を飲み、瞼をギュッと瞑った。





すると急に後頭部がスッと軽くなり、パサリと肩に長い髪が落ちて来た。



「…へ?」



目を開けると、康君はすでに運転席に身体を戻し涼しい顔をしている。



「…遅刻しますよ?お嬢様」



拍子抜けだった。


キス…されるかと思ったけど…


ただキスマークが見えないように髪を下ろしてくれただけだったんだ…


勘違いも甚だしい…


康君が私にそんなことするわけないのに。