「ううん、何でもない。ただ、いつもきっちりしてるから少しは気を抜いてもいいのになって思って」
キョトンとした表情で瞬きを繰り返す康君は、ゆっくりと口の端を上げて微笑んだ。
「ふっ。ありがとうございます。お嬢様はお優しいですね」
「…そ、そんなことないよ」
その微笑みに一瞬ドキッとした私は、その気持ちを誤魔化すように目を逸らす。
康君は元々顔立ちが整ってて、色素が薄く肌は透き通るように白く綺麗で、それでいて好青年。
会長とは真逆のイケメン。
そんな康君にあんな柔らかい笑顔を向けられたら、女だったら誰だって見惚れちゃうよ。
「それよりお嬢様、お時間が…」
「へ?…もうこんな時間!?」
そっか!今日は髪をセットしたりしていつもより身支度に時間掛かっちゃったんだ…
私は化粧するのをやめて、康君と急いで玄関に向かった。

