君のいる世界





「それにおばさんの料理、とっても美味しかった」



「嘘付け。あんな庶民の飯なんて初めて食べただろ?」



「嘘じゃないよ。私は、フレンチやイタリアンよりもおばさんの料理の方が好き」




どこからかカレーの匂いが漂ってくる。


目を閉じると食卓を囲む家族の様子が頭に浮かんできた。


その家族にはたくさんの笑顔と幸せな時間が流れていて、私には眩しかった。




「うちね、お母さんいないの。離婚して小学生の時に出て行った。お母さんは一般家庭の育ちで、離婚する前は毎日ご飯を作ってくれてたんだよ。焼き魚にお味噌汁でしょ、出し巻き卵、それから炊きたてのご飯!!」



私は夜空を見上げた。


お母さんの柔らかい笑顔と湯気が上がる愛情たっぷりの料理を思い出すと、急に涙が溢れて頬を伝った。


私は泣いているのを会長に気付かれないように俯き、右手の人差し指で涙を拭う。




「…だから今日、おばさんの料理食べたとき懐かしくて…っ嬉しかったんだ」



私は家が大きくなくてもお金持ちじゃなくてもいいから…


家族揃って机を囲ってご飯を食べて、テレビを見ながら笑って。


そんな普通の幸せがほしい…