君のいる世界





会長のこと、今は嫌いじゃない。


それどころか会長の隣りは居心地が良くて、何だか安心する。


この数時間で会長に対する気持ちが大きく変わっていた。




それに会長も、表情が穏やかでよく話してくれるようになった気がする。


少しは私に気持ちを許してくれたのかと思うと、それだけで嬉しかった。






「驚いただろ。うち、狭いしボロくて」



「ん〜、正直…会長が帰って来た時は驚いた。会長は凄いお金持ちだって噂されてるし」



「…勝手に想像して勘違いされていい迷惑だ」




会長はズボンのポケットに両手を入れたまま、道に転がっていた小さい石ころをコンッと蹴った。




「でも、私は好きだな。会長のお家」



私は転がっていく石ころを見ながら、会長の家族のことを思い出した。




子供達を愛おしそうに見つめるおばさん。


面倒見がよくてしっかり者の琴音ちゃん。


やんちゃで元気いっぱいの春音ちゃんと大和君。




「うちが?」



「うん。だって暖かいから」



「隙間風が凄くて夜は寒いぜ?」



「そうじゃなくて!!家族の笑顔が溢れてて愛情いっぱいで…憧れる…」




笑顔も、愛情も…うちにはないから。