「会長は噂通りの人ですね。人の顔も名前も覚えない。冷静沈着、冷酷な瞳、そして眉目秀麗」
「…何が言いたい?」
「だけど、谷本さん相手だといつもの自分じゃいられなくて焦ってる」
図星だった。
谷本財閥を壊す為に近付いたのに…
あいつを目の前にすると調子が狂う。
自分が自分じゃないみたいで、どうしたらいいのかさえわからなくなる。
「あんまり谷本さんを虐めないで下さいね」
山下はそう言い残して生徒会室を出て行った。
俺は窓の前に立ち、外を眺めた。
窓に映る自分の姿があまりにも醜くて、俺は窓を拳で殴った。
昼休み終了間近、谷本麗奈が鼻歌交じりに生徒会室の扉を開けた。
数十分前の出来事なんて忘れてしまったかのように上機嫌な谷本麗奈に苛立ちさえ覚える。
「おい、忘れもん」
俺が谷本麗奈の生徒手帳をひらひらと掲げると、あいつは俺の側まで来て手を伸ばした。
「ちょっと…返してよ!」
生徒手帳をヒョイっと更に高く上げると、谷本麗奈の手は空を切った。

