入学して半年が経った。
ある日の下校中、道端でしゃがんでる谷本麗奈を見つけた。
周りには車も付き人もいない。
チャンスだと思った俺は、背後から一歩一歩ゆっくりと近付く。
「…てよ〜。舐め過ぎ!あはは」
近付くにつれて、あいつの声が聞こえてくる。
表情は後ろからで見えないけど、初めて笑い声を聞いた。
こいつ、笑えんじゃん。
これが多分、本当の谷本麗奈の姿。
喋り方も笑い方も、全然違う。
こっちの方が人間らしくていい。
なのになんで学園では“社長令嬢”の面なんて被ってんだ?
…まぁ、そんなの俺には一切関係ないことだけど。
俺はあいつに声を掛けようと、ゆっくりと近付く。
谷本麗奈は相変わらず手元に夢中で俺に気付かない。
電信柱の隅に隠れてよく見えないけど、どうやら子猫とじゃれ合っているようだった。
「お前、ひとりぼっちなの?…私と同じだね」
ひとりぼっち?
あんなに毎日囲まれているのに。

