ふと前方を見ると、赤い屋根の小さな花屋が目に留まった。
店先には色とりどりの花が並び、60代半ばぐらいの白髪のおばあさんが花の手入れをしている。
「大輝。ちょっと待ってて」
私は大輝に断りをいれて、おばあさんの元へ向かった。
「鮮やかなピンクですね。これはカトレアですか?」
声を掛けると、ゆっくり振り返ったおばあさんは「いらっしゃい」と言いながら、丸い眼鏡のフレームを手の甲で直した。
レンズの奥の瞳はここに並ぶ花のように純粋で透明感があるような美しさ。
その瞳と柔らかい表情を見ただけで、おばあさんが心の綺麗な人だってわかる。
「あら、お嬢さん。花がお好きなの?」
「あまり詳しくはないけれど好きです。この花は祖父が祖母に送っていたので知っています。確か、花言葉は【あなたは美しい】【あなたは大切な人】【純愛】でしたね?」
「あなたのお祖父様は本当にお祖母様を愛してらしたのね。カトレアは花の女王と呼ばれていて、他にも【優美な貴婦人】っていう花言葉もあるのよ」
おばあさんはそう言って、慈しむような眼差しでカトレアを見つめる。

