君のいる世界





祖母は手で目元を拭うと、お母さんの方へ振り返った。



「朱美さん…辛い思いをさせてしまって本当にごめんなさい」



そう言って深く頭を下げる祖母の姿に、そこにいた誰もが息を呑んだ。



「そんなっ…頭を上げて下さい」



お母さんは祖母に歩み寄ると、祖母の肩を支えるように手を添える。


そして、やや顔を上げた祖母の目線に合わすように腰を屈めると口元に笑みを浮かべた。




「もう、過ぎたことです。お義父様が命を掛けて守ってきたこの会社を、お義母様が何としてでも守りたい気持ち、私にもよくわかります。離婚は、私が弱くて辛抱出来なかっただけです。お義母様のように強い心を持っていればこんな風にはならなかった。私こそ、申し訳御座いませんでした」



「朱美さん……っ…本当に、ごめんなさい…ごめ……ゔ…」



「お義母様…」



瞼が少し弛んで細くなった祖母の目から、無色透明の涙が次から次へと流れた。


顔を覆った皺くちゃな手からは、祖父が亡くなってから今日までの沢山の苦労が伝わってくる。


お母さんに肩を抱かれた祖母があまりにも小さくて、私が祖母から目を背けていた時間がどれほど長かったのか思い知らされた。