「お祖父さんが数年前に突然亡くなって、トップを失った谷本財閥を私は必死で支えてきました。まだ小さかった会社をここまで大きくしたお祖父さんの努力を無駄にしないために。息子のあなたが社長として一人前になるまで何がなんでも会社は私が守る、そう心に決めて」
祖母は座椅子から立ち上がると、縁側に立ち整備された庭を遠い目で眺めた。
その横顔は何だか寂しそうで、胸が痛む。
庭のししおどしは相変わらず同じ間隔で竹筒を鳴らしている。
「会社を動かすということは、時には人を欺くことも必要です。綺麗事ばかりではすぐに潰される。それに当時の日本は男女差別が酷かった。財閥のトップに女がいるなんて、他から見れば滑稽以外の何物でもありません…私は女だからといって負けたくも逃げたくもなかった。だから私は会社を守るためには情を捨てたんです。でも…」
そこで声を詰まらせた祖母は、微かに肩を震わせている。
いつも、どんな時も、祖母は毅然たる態度を失わずにいたのに…
こんな風に弱々しい姿を見せるなんて祖父が亡くなって以来初めてのことだった。

