「さて、俺はまだ仕事が残ってるから行くな。俺の出番がきたらいつでも連絡して。それと麗奈ちゃん、俺はあの彼だから身を引いたんだ。彼以外の男に渡すつもりはないから、それだけ覚えておいて」
直幸さんはそう言うと、ふっと笑みを浮かべて伝票を手に取って立ち上がった。
「あと…多分だけど、今回のこと谷本社長は何も知らないと思う」
「え…?」
「谷本社長が麗奈ちゃんが傷付く事をするとは思えない。あんなに愛おしそうに麗奈ちゃんを見てるのに…」
愛おしいそうに…?
あの父親が…私を?
「そんなわけ…ありません。だって、直幸さんとのお見合い話が来た時も助けてくれなかったのに」
「お祖母様がまだ権力を持っていたら、なかなか口出せ無い事情もあるかもしれないけど…とにかく、一度話してみた方がいい」
直幸さんは「それじゃ、また」と手を上げて、店を出て行った。

