「あの…大丈夫ですか?何処か痛みますか?」
「…いえ。大丈夫です。本当にすみませんでした。私はこれで失礼します」
彼女は頭を下げるとそのまま階段を登って行った。
遠ざかっていく足音がやがて聞こえなくなると、私はその場に落ちた鞄を拾った。
「あれ?これ…」
鞄の下には、私の物ではない手帳が落ちている。
きっとさっきの子のだよね?
追い掛けて渡そうにも彼女の名前も何も知らない。
勝手に中を見るわけにいかないし…
制服のリボンの色からして同じ学年みたいだし、明日教室を回って探せばいいか。
私は手帳を鞄に仕舞い、階段を降りた。
校門を出ると、すぐ近くに迎えに来てくれた車が停まっていた。
私に気付いた康君が車から降りて、「お帰りなさいませ」と言って後部座席のドアを開けてくれる。
私は無理矢理笑顔を作って、康君に返事をした。
「麗奈ちゃん」

